特殊な印刷物の加工費用を軽減する方法?
POP制作で活用する2種類の抜き加工と3つのルール
前回のご紹介した、「印刷物制作の基礎知識 vol.1」である
「最悪の刷り直しを避けるための方法? 色校正を行うべき3つの理由と2種類の色校正」
に引き続き、今回は、POP制作で活用する「抜き加工」についてご紹介したい。
今回は、たくさんあるポイントの中から、
「2種類の抜き加工」と「抜き加工を行う際の3つのルール」について、ご説明をする。
POP制作で活用する2種類の抜き加工
抜き加工を行う方法は、大きく分けて2つある。
抜き型を制作して、抜き加工用の機械で行う方法
従来から行われている一般的な方法として、抜き型を制作して、それによって抜き加工を行う方法が挙げられる。
分かり易く説明すると、ハート形のクッキーを作る際、
みなさんはまず、ハート形の抜き型を用意するだろう。
そして、伸ばしたクッキーの生地に1個1個、押し当てて、
ハート形のクッキーを作っていくだろう。
POP制作も同じである。
もし、丸い形のPOPを作ろうと考えたら、まず円形の抜き型を作る。
そして、それを紙に押し当てて、紙を丸い形に抜いていく。
これを抜き加工用の機械で行っていくことになる。
抜き型を制作せず、カッター付きの機械で行う方法
近年、小ロット印刷の需要拡大やオンデマンド印刷機の性能向上に伴い、抜き型を使用せずに、抜き加工を行う機械が数多く登場している。
この機械には、センサーとカッターが付いており、
Illustratorなどで制作した、抜きラインをパスデータとして送ると、
機械がセンサーで紙の原点を読み込み、
そこを基準に付属のカッターで自動カットしてくれるというものだ。
上述の抜き型を使用した加工に比べ、
この機械でカットする方が、加工に時間が掛かってしまうため、
枚数が多いものには、作業時間の面で不向きと言える。
POP制作で抜き加工を行う際の3つのルール
では、実際に抜き加工を行う際に、どちらで行えば良いのか?
どのような注意点があるのか考えてみたい。
1 納期をどのように設定するべきか?
まず、抜き加工が必要な時点で、通常の印刷よりも製作に時間が掛かる。抜き型を製作する場合、型の製作だけでも、
短くて1日、通常は2日間または3日間は、想定しておいた方が無難である。
全体の流れとしては、データを抜き型の製作所に渡し、問題が無いかチェックし、
その後、実際の抜き型製作を行い、抜き加工を行う工場へ抜き型を渡す必要がある。
そして、抜き型が完成次第、抜き加工を行うのに、ロットに応じた加工時間が掛かる。
抜き型を制作しない場合でも、今度はカット(抜き加工)に時間が掛かるため、
事前に、1個の抜き加工に掛かる時間から計算して、
トータルの加工時間を、余裕をもって想定しておく必要がある。
Tips:ロットが多い(1個の大きさにもよるが、1,000枚または5,000枚以上の)場合は、
抜き型を製作することになるが、時間に余裕があるなら、
実際の印刷物を抜いて、抜きチェックを行うことをオススメしたい。
全部、抜き加工を行ってしまってから、万一、不備が発覚した場合、
紙を全部仕入れ直し、また最初から印刷を行わなければいけないからだ。
印刷において、リスクを可能な限り低くする努力は、非常に重要である。
Tips:どうしても納期を短縮する必要がある場合は、
印刷物のデザインの大枠が確定した時点で、抜き型を製作する方法がある。
細かい修正や色の調整などを行っている間に、抜き型を製作するのである。
ただし、もしこの方法を行う場合は、抜く形状についてはOKを頂き、
クライアントに対して、修正ができないことを伝える必要がある。
もし、途中で抜きの形状が変わると、余計な費用が発生することになる。
2 価格メリットはどちらの方法にあるのか?
価格メリットは、抜き型の形状や製作するロットによって異なる。【抜き型の形状】
複雑な程、また、直線ではなく曲線が含まれる程、抜き型の製作費用は高くなる。
抜き型を使用しない場合は、カット時間が少し長くなり、若干作業工賃が高くなる。
【製作するロット】
枚数が多い程、抜き型を製作した方が、単価を押さえられる。
抜き型を製作する場合、イニシャルコストが高く、加工単価は安い。
抜き型を使用しない場合、イニシャルコストは安く、加工単価が高い。
Tips:お客様に御見積書を提出する際、既に製作部数が決まっている場合は良いが、
これから枚数を検討する場合は、抜き型を製作する場合と製作しない場合、
それぞれの費用が逆転する境目を中心に、両方の製作費用を提出すると、
クライアントから、信頼を得ることに繋がる。
3 再版(リピート制作)の可能性はあるか?
どちらの方法を選ぶか考える上で、
再版(リピート制作)の可能性があるかどうかは、非常に重要なポイントである。
ある程度、定期的に製作を行うのであれば、
イニシャルコストは高いが、加工単価は安い、抜き型を制作する方法が良い。
一方、ロットがそれほど多くなく、単発のプロモーションであれば、
抜き型を製作せずに、抜き加工を行った方が良い場合が多い。
Tips:お客様に御見積書を提出する際、こちらも同じように、
これから枚数を検討する場合は、抜き型を製作する場合と製作しない場合、
定期的に製作した場合と単発で製作した場合、両方の製作費用を提出すると、
クライアントから、信頼を得ることに繋がる。
最後に
抜き加工が必要な印刷物は、通常の印刷物制作よりもリスクが高い分、
事前のスケジュール管理や費用シミュレーションが重要になる。
Tipsでも少しご紹介したが、様々な状況を想定して、
クライアントにとって、最も利益に繋がる方法を模索しながら、
ご提案することが、クライアントからの信頼獲得に繋がると考える。
また、POP製作を発注する企業側の視点で考えると、
様々な状況を想定して、販促単価を考えることで、
プロモーションの費用対効果をアップさせることに繋がる。
企業のプロモーション担当・販促担当・マーケティング担当の方にとって
少しでも参考になれば幸いである。